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そーゆーとこ。
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あ―何かいろいろ懐かしい(笑)

ってとこで、そろそろ再開してみよっか。…つうかコピペなのにもうすぐ一年間が開くってどうよ、みたいな気もしますがね…

一応「きら高×ひび高」の図式ですが、基本線は「詩織×八重」ですね。何でひかりんじゃないのか?っつうと…


よく覚えてない(笑)


ただまあ、影のある人同士の対決の方がいいなあ、って個人的好みだろうかねえ。うーむ。

炭酸飲料を買って席に戻ると、さっきまで座っていた席を探し、腰を下ろす。
少女は、相変わらずピッチの中のただ一人を見つめている。
まるで親の仇を見るような目線だ。
ボールはコーナーから蹴られようとしていたが、少女はそちらには目もくれない。
少女の注目とは全く別に、試合は進んでいる。
或いはこの少女は、試合そのものに興味はないのかもしれなかった。










(直接…にしようかな。右足アウトで曲げて…、ううん、鏡さんか優美ちゃんに合わせるか)
マーク状況を見て詩織は考えたが、右サイドバック美樹原愛のオーバーラップを認めて微笑する。
(わかってるなあ、メグ)
詩織はゴール前を狙わず、ほぼ真後ろ、愛の方向にショートコーナーを蹴る。
「ショートか!」
真帆が愛に詰め寄るが愛はワンタッチで詩織にリターン。
詩織はゴール前のマーク状況を確認すべく目を上げる。
「八重さん!」
同時に琴子の声が響き、詩織がふと見ると魅羅がフリーだ。
魅羅をマークしていた筈の花桜梨がいない。
(ここね。鏡さんに…)
だが詩織はクロスを上げられない。
ボールを蹴るその瞬間、いち早く詰めて来た花桜梨の足がそれをブロックしていた。
ボールを挟んで二人の脚は激突し、ボールはあられもない方向に舞い上がってしまう。
FWの優美、MFの彩子もボールを追うが一歩早くDFのすみれが追い付き、ヘッドでボールを舞佳に返す。
(あの八番…、いつのまに?)
詩織は自分の足元で滑り込んだ体勢のままの花桜梨を見下ろした。
花桜梨はその詩織の視線には気付かない風で立ち上がり、ジャージを軽く払って前線へ向かう。
考えてみれば詩織がクロスを上げるまでには、愛を経由する時点で間が空いていたし、その間に寄せてくるのは当然といえる。
だが花桜梨のいた位置を考えると、単純に足が早いということに加え、詩織からクロスが上がる、という判断を一瞬で下したことになる。
(八重花桜梨、か…偶然なの、それとも…)
詩織の中で、花桜梨は要注意人物として認識された。

 











芹華が呟いた。
「あれはどうかな…」
「?どうしたの、芹華?」
少し顔をしかめ、キョトンとしている恵美に説明する。
「今のひび高八番…結果的に藤崎をブロックしたけど、マークを空けただろ?」
「…じゃあ、空けなかったらどう?芹華がボール持ってたら…どうした?」
芹華は少し考える。
「ボール出し所がないから…、エリア内に切れ込む…かな」
「危険度は確実に増すわね。今度はシュートの心配だってある」
恵美はディフェンスの立場から意見を述べる。芹華は頷いて聞いていたがあることに気付く。
「ちょっと待て…じゃあ、クロスを上げさせるためにマークを外したってのか?」
恵美は少し首を傾げる。
「あら…?そうなるわね。でも、クロスをブロックしたわ。上げさせてはないでしょ?」
「そんなまどろっこしいことするか?」
ドリブルで切れ込ませないために敢えてマークを外し…、安心してクロスを上げようとするところをブロック?
だがクロスを上げられたら?合わせられたら即一点、のゴール前で打つには勇気のいる博打だ。
上げさせない自信があったというのか?
芹華はぷいと横を向いてしまう。考えれば考えるほど疑問符ばかりだ。
「危険だろ?」










「八重さんあなた!」
琴子が花桜梨を捕まえて何か言っている。凄い剣幕だ。
「なんで鏡さんから勝手に離れたのよ!」
琴子は激昂しているが花桜梨は相変わらず無表情で、周囲の全員はただ成り行きを見守るばかりだ。
と、そのとき光がやってくる。真帆がホッとして言う。
「あー!ひかりん、いいとこに来た!…何とかしてよ」
「どうしたの真帆ちゃん?」
真帆は黙って琴子と花桜梨の方を示す。ちょうど花桜梨が応えている。
「…状況が変わっていたから」
「何ですって?」
「コーナーキックの時点ではマークすべきだったけど…、あのままでは藤崎さんが持ち込んでた」
花桜梨は至って冷静に反応するが、その態度がまた琴子は気にいらない。
「だからって、」
少し息を吸う。
「他の人もいるでしょう?鏡さんの身長を考えた?」
「距離とスピードを考えたら私が一番近かった…それに」
花桜梨は一瞬口篭る。
詩織にクロスを上げさせるために、わざとマークを外したと琴子が知ったら…、どう反応するだろう。
「それに何よ」
「まあまあ琴子。もう、いいじゃない…とりあえず守れたんだし、さ」
光は琴子の後ろから近付き、琴子の両肩に両手を置く。
琴子はその手を払いながら光を睨む。
「…光。なんでここにいるの。場所が違うでしょ?前線にいなさいよ」
光は軽く笑う。
「ん、まあそうだけどさ。すぐ行くよ」
光は走り去ろうとするが、琴子が離れたのを見ると花桜梨に向き直る。
「八重さん!」
「…何?」
花桜梨は少し驚いて光を見る。
「今は聞かないけどさ…、言いたい事は全部言って欲しいな」
「私、別に…」
花桜梨は誤魔化そうとしたが光の眼差しは真摯なものだった。
「言いたいこと、あったんじゃない?」
「…」
沈黙が流れたが、光はすぐに表情を和らげる。
「じゃあ、私は行くね?」
今度は本当に走り去り、琴子の方に呼びかける。
「琴子ー!ちゃんとボールまわしてよ?」
「…わかってる!」
琴子はやや憮然としているが、光は軽く笑って前線に上がって行く。
「頼んだよ!」
花桜梨は一部始終を見守っていたが、光と目が合うとなんとなく目をそらした。
だが光は特に気にするでもなく、花桜梨に笑いかける。
「八重さんもね!」
このとき花桜梨は、言いようのない敗北感を感じた。










「陽ノ下光、か」
前線に戻る光を見ながらGKの万理が呟く。理佳は少し悪戯っぽい目でちらと万理を見た。
「やっぱ気になる?まりりん」
「それは…」
はっとして万理はいったん言葉を切った。理佳を怖い目で見る。
「なるわけないでしょ?」
「そうかなあ?」
理佳はくすくす笑っている。だが、万理の眼光に黙り込む。
「あの程度を気にしていては、もえぎの高校のGKは務まりませんことよ?」
「…あの足は警戒すべきだと思うけど」
理佳が怯える横で穂多琉が誰言うとなく独りごちる。
万理は穂多琉をちらと見た。やや忌々しげだったが穂多琉は平然とピッチを見ている。
万理も聞こえない振りをすることにしたのか、穂多琉の言には無反応だ。










「よっしみんな、ガンガン行くよ」
ボールはキーパー九段下舞佳のキックから琴子、茜と渡ってオフェンシブハーフ伊集院メイから花桜梨を経由してほむらに通る。
ひび高の基本戦略は「堅守速攻」でその根幹を成すのが1トップのFW、光である。
光にボールをより良い形で通せるか否か、それがひび高のすべてといって過言ではなかった。
今ほむらはルックアップ、光を探す。
「陽ノ下、どこだ?」
眼前にきら高ストッパーの古式ゆかりが迫るのを認めると(迫ったというよりはそこにいただけなのだが)、ほむらは光の位置を確かめ、クロスを上げようとする。だがそのとき異変が起こった。
「ひの…」
その言葉を言い終わる前に、ゆかりの右足がボールを奪っている。
「な、何でだ!?」
ほむらは驚きを隠せない。
「あ ら あ ら 、ボ ー ル で す ね え」
ゆかりは驚いているのか当然と思っているのか、傍から見て判然としない様子でボールを間近の未緒に送った。










「バカな奴なのだ…」
メイは顔を覆う。いくらスピードに乗ったからといって、DFに真正面から突っ込んでどうなるというのだ。
全てを見ていたわけではなかったが、そう結論付けていた。しかもそう間違ってはいない。
「大体だな…」
愚痴りかけてやめる。とにかく今はフォローに回る。メイはゆかりにプレスをかけにいく。
一瞬敵陣ゴールに目が行くが、かぶりを振ってメイは無理やり目をそらす。
(関係ないことなのだ)
ゴールを守るのは伊集院レイ。
メイの兄だ。いや、兄であった。
ついこの間までは、敬愛さえしていた。
そう、あのことさえなければその思いは今でも変わることはなかったろう。
メイは思考を振り払うように頭を振る。
自分はトップ下、チームの中心だ。雑念に囚われている場合ではない!と、花桜梨が詩織をマークに行くのが見える。
(あいつ、ウイングなのに…。守備に入り過ぎなのだ)
メイは顔をしかめる。堅守速攻、というが守備だけをするわけではない。
速攻をするためにはそれなりの準備が要る。花桜梨の行動は、その速攻を破綻させる要因になりうる。
ディフェンスしすぎると、速攻のタイミングを失うのではないか?
メイはそこに思い至る。










ゆかりから未緒を経由してボールが詩織に通ると、ひび高イレブンに緊張が走った。
詩織は周囲を軽く見回すとチャージにきていた美帆をシザースで翻弄し抜き去る。
「なんて早いシザース…」
「藤崎より出先を見て!」
琴子の指示が飛ぶ。詩織は花桜梨が止めに入る。
(来た…)
詩織は花桜梨と相対し、そのプレッシャーに舌を巻いた。
(隙がないわね…)
ボールをドラッグして二、三度左右に動いてみるが花桜梨は動じる気配もない。
(ふうん、見切っているというつもり?…なら)
詩織は花桜梨の脇をすり抜けようとする。
花桜梨は反応して止めに行くが、同時に詩織は踵で真後ろにいる見晴にボールを送っている。
花桜梨が見晴に駆け寄ると、見晴は花桜梨を充分引きつけて真横に上がっていた愛に、愛もまたダイレクトでノーマークになった詩織にパスを出す。
完全に花桜梨は置いていかれた。
(あなたは、確かにいい選手だけど)
詩織は花桜梨を振り返り、軽く笑みを浮かべる。
(サッカーは十一人でするものよ)
再度加速する。独走だ。










「連携がいいわね」
穂多琉が呟く。
「うん…藤崎さんも確かにすごいけど、他の人もよくまとまってるね」
優紀子も頷く。ちとせは上体を逸らし、背凭れに体を預ける。退屈そうだ。
「なーんか、こう…見えてきてないか?この試合」
「結果が、ですか?」
恵美が驚いて尋ねる。ちとせはうんと頷いて続ける。
「藤崎を中心にようまとまっとる中盤。さっきから全然止まらへん攻撃。攻めっぱなしや。そのうち先取点取ったら緊張も切れて…三点差くらいつくんちゃう?」
理佳がくすくす笑う。
「ちいちゃん気が早過ぎるよー、それ」
「先取点が入れば、な」
芹華が誰言うとなく呟く。ちとせはそちらを見たが、万理が代わりに口を開く。
「ひび高の守りが、今のままならね…」
万理はそう言い、再びピッチに目を落とす。










「八重!」
メイが花桜梨を呼び止める。
「何」
「お前は右のウイングなのだろう?引き過ぎなのだ」
「…」
花桜梨も、薄々それは感じていた。前に近い位置の自分があまりに守備的では、攻撃時に手数が足りない。
だが彼我の戦力差を考慮してみると、ひび高DFの面子で今のきら高攻撃陣を凌げるとはとても思えない。
開始早々を凌げば向こうも疲労するだろうし、そうなれば付け入る隙もある。
いや、そこにしか活路はないように思えた。だがメイの見解は異なる。
「そもそも、守りに行った挙句に抜かれるようでは守備をする意味がないだろうが」
「…ごめん、話してる暇ない」
花桜梨は走って自陣方向へ行く。メイに言われたことが図星だったこともある。
だが、これが最善の判断のはずだ。自分が何とかしなければ、どうなってしまう?
「おい!待つのだ!」
当然ながら、花桜梨は待たなかった。
「全く!」
言うと同時に後ろから頭を叩かれる。
「痛…」
「ボサッとしてんじゃねえぞ!」
ほむらがいる。
「な!何だと!大体、八重が…」
更に頭を叩かれる。
「こら!ポンポン叩くな!」
「人のこと言ってねえで動け!やることやってから文句言えってんだ!」
ほむらはこう言うが、内心では花桜梨の行動に好意的ではないのは、彼女の性格から考えて言うまでもない。
だが攻められている時間帯の方が多い現在、守備をする必要があるのもまた事実だ。
(サッカーでボールキープできないってのは、つまんねえな)
ほむらは顔をしかめ、詩織を追う。










「藤崎先輩!」
優美は叫んで素早く戻り、同時に詩織からのパスを受ける。戻りの早さとパスの速さでマークがずれたところで優美は外に切れ出す。
(よーし。左サイド独走だあ!)
「あ…!」
茜が慌てて優美を追うが、そのため魅羅のマークが一瞬ガラ空きになってしまう。
琴子が急いで魅羅をマークに入るが、優美もマークが遅れている事に気付く。今ならパスが通る。
「鏡先輩お願いします!」
一瞬早く優美からセンタリングが上がる。










「ああ…」
楓子はハラハラしながら戦況を見守っている。僅かな攻めは撥ね返され、長い守りはたびたびゴール前を脅かされる。
おずおずと華澄に切り出す。
「あのう…麻生先生」
「ん?どうしたの?」
華澄は至って穏やかな口調と表情で応える。
「ちょっと早いかもしれませんけど、何か手を打った方が…」
「うーん…そうねえ」
華澄は少し考え、楓子にとって全く予想外の答えを返す。
「ひょっとして、今負けてるのかな?」
「とりあえず押されてます…」
楓子はそう言うのが精一杯だった。
「なるほどねえ」
華澄は少し考えるが、何かに気付いたようだ。
「押されてて、同点なのよね?」
「…そうですけど」
華澄は破顔する。
「じゃあ、こっちが優勢ね!」
(そ、そうかなあ…)
「だって、考えてみて。攻める時間があれだけ長くて点が入っていないというのはいかに効率が悪いかの証明よ」
「まあ、それは…」
「効率の面で優っている私たちが優勢なのは疑い無いわね」
自信を持って言い切る華澄に、言い様のない不安を感じる楓子だ。










琴子は魅羅へのセンタリングを認めるが、魅羅へのパスコースの中に入るには間に合わない。
そこで魅羅のシュートコースを防ぐ方向でディフェンスをする。
「…?」
だが優美は魅羅から見て斜め後ろにいたため、シュートまでには間がありそうだ。
(いったん止めて、振り向いてだから…)
ふと別の考えに思い至る。駆け込んで来る詩織に気が付いた。
(藤崎に戻す?)
さっきも詩織からだった。充分ありうる。
(そっちか!)
琴子は駆け出した。










その詩織は今猛然とダッシュ、魅羅からのパスを受けられる位置に動こうとするが真帆が執拗にマークする。
「何度も何度も、させないっての!」
真帆は反則スレスレで肩をぶつけに行く。詩織は辟易する。
(もっとスマートにできないものかしら?)
詩織は魅羅を見ると、ゴール前に目配せする。
(鏡さん)










ひび高右サイドバックの野咲すみれは琴子の動きを見、詩織へのチェックにいこうとしていたが、琴子が魅羅のマークを捨てて詩織に動きかけたのに仰天する。
(鏡さん、ガラ空き…)
詩織を見ると真帆が貼り付いている。花桜梨も今詩織に近付いてくる。
(みんな、完全に藤崎さんに振り回されて…)
だが、自分もそうであることに改めて気付く。
(これじゃあ…、)
駄目だ、と思いかけて首を振る。
(ダメだって…、そう思うのがダメなんだから!)
結果も出る前に諦めてなるものか。少なくともすみれはそうやって生きてきた。










「うわ、ひどいな」
「…藤崎さんにマークが集中してるね」
だが芹華は優紀子に異を唱える。
「集中しているというか…振り回されてるな」
「そうね。チームとしてマークできていない…」
穂多琉も同意する。
「こんな状態では、藤崎さんがマークを引き連れて出来たスペースからチャンスになりそうね」
芹華も頷く。
「サイドの清川なり朝日奈なりが…突っ込んで決めそうだな」
「前半のうちに修正できるかなあ?」
「無得点のうちにできるかどうか、ですね」
理佳の疑問に恵美はさらっと応えた。修正なんて、いざ点を取られないと出来ないものだ。
…そして、その時には遅かったりする。










(ノーマークとは、舐められたものね)
魅羅は落下してくるボールを見ながら考えていた。詩織の合図を見るまでもなくシュートチャンスだ。
(打たせて頂くわ)
魅羅は右足を軸にゴールの方を向きながらボールの落下点がちょうど左足下になるよう調整し、足元に落ちるボールをダイレクトでシュートする。
振り向きながらなのでそう勢いは強くないが、ボールはまっすぐゴールに向かっている。
美幸がブロックに入っているがこれも及ばない。
きら高先制かと思われたが、辛うじて舞佳が左手一本でボールを叩き落す。
「いやーあぶない、コースが正確で助かったよん」
舞佳は実際逆方向に動きかけていたが魅羅のシュートが早かったため、なんとか手一本でのパンチングが間に合った。
「ナイスキーパー!」
すみれが声をかけ、舞佳はピースサインで応える。
「はは、ちょろいちょろい。前線、行くよ!」
舞佳はパントキックで大きく蹴り出すと、小さく舌を出す。
(実はまぐれ…なんてのは言わないほうが良さそうねん)










「へえー。いいシュートだね」
「止められてるやんか、左手一本で。あれを弾き飛ばすくらいでなかったらあかんわ」
「けど…」
「いいや、牧原の言う通りだ」
押し捲られた優紀子に芹華が助け舟を出す。
「まず足の振り幅が小さい…ボールの出所が見辛くなってる。それにボールの出も早くなってるから、速くなくても充分入る。それと」
芹華は膝の上で手を組み、その上に顎を載せて続ける。
「一番大事なのは枠に行ってる事」
ちとせが少しうんざりする。
「あんな、足の振りとか出が早いはまあええとして…枠には行って当然であって欲しいな、ウチは。FWはそれが仕事なんやし」
「ち、ちとせ…急いで打って枠に行く、ってのは結構難しいと思うな」
優紀子のフォローにちとせは少し考えたがやがて頷く。
「なるほどな」
ちとせの同意を得、優紀子は芹華に向き直る。
「あ、神条さん…ありがと」
芹華は目線だけ優紀子に向けるが、無言だ。優紀子は半ば怖くなるが勇を振るって続ける。
「説明してくれて。私じゃちとせ、納得しなかっただろうし」
「…別にお前や相沢のために喋ったわけじゃない。間違った考え方をされるのが嫌だっただけだ」
「あ、そうなんだ…」
優紀子は俯いて黙り込んでしまう。恵美はその様子を見て苦笑するが、芹華は素知らぬ顔でピッチを見ている。










「ふう、危ない」
琴子は額を拭う。今まで、いいようにやられている。
守ってカウンターは規定路線にしても、あまりに振り回されすぎている。
「球を奪えないからといって、主導権を取れないということはないものね」
呟いてみる。積極的な防御、というのもあるはずだ。もっともこの相手にそれが出来るかということは別として。
「琴ちゃん!」
思惟にふける琴子に、茜が呼びかける。
「鏡さんは、ボクがマークするよ。任せて」
茜の意外な提案に、琴子は少し思案したが特に問題はないと思えた。
「まあ、あなたなら上背でも張り合えると思うけど…、どうして?」
「なんか、ああいうチャラチャラしたのって、許せないんだよね」
間髪入れず答える茜に少し驚いて琴子は茜を見る。
確かに腕力は強いが、気性が荒いわけではない筈だが。
「…個人的な問題じゃないでしょうね?」
「少しあるけど…任せて欲しいな」
琴子は少し逡巡したが口を開く。
「…完璧に抑えてよ」
「わかってるって!」
茜は胸を叩く。理由はわからないが、琴子は漠然と不安を抱く。










舞佳のパントは美帆へ通り、美帆は夕子のチャージを受ける数瞬前に光へアーリークロスを上げる。
(いいコース!…)
光は懸命に背走する。追い付けば決定的チャンスは疑いない。
落下するボールを体の横に捉えながら前を向こうとして…、向けなかった。肩が何かに当る。
見晴の肩だ。光の背には見晴が貼り付いている。
「えっ?いつのまに…!」
「えへへ。ずっと見てたよ、あなたの事」
見晴の巧妙なチャージに光は前を向くことが出来ない。
止む無くゴールに背を向けたまま、ヘッドで花桜梨に返す。
花桜梨はボールを受けると光を見るが、どう見てもボールを出せそうにない。見晴のタイトなマークに引っ掛かっている。
(速攻は破綻したわ…)
だがまだ諦めない。メイが上がってくるのを認め、もう一度攻撃パターンを模索して見る。
(伊集院さんと私で上がっていけば…、陽ノ下さんをマークしてもいられない筈)
メイの前にボールを送り、花桜梨自身も光とは逆のサイドに切れ出していく。
プレッシャーの少ないサイドからクロスなりパスなり、のイメージだがメイはそのまま突進していく。
(あ、違う…まさか)
花桜梨の予感は当たる。メイは立ちはだかった未緒をかわすと、即座にシュートを打つ。
一瞬緊張が走るが、ボールはクロスバーの上を越えた。
(伊集院さん…)
花桜梨は歯噛みして、何となく未緒の顔を見た。
シュートを打たれても、平然としている。まるで計算通り、とでも言うように。
(今のは伊集院さんが軽率だけど…読み切っているの?)
その疑念が花桜梨の脳裏を掠めるが、その考えに浸る間もなく、花桜梨は守備に戻る。










未緒にしてみれば実際に計算通りだった。
(遠すぎますね…あれでは)
未緒はメイがシュートを打ちたがっている、と察していた。
さっきからしきりにボールに絡もうとしていたし、ボールを持ってもなかなかパスを出さない。
そういったプレイスタイルであれば、ゴールが見えた時点で打ってくるのは予想できた。
未緒をかわした時、メイとゴールの間にはゆかりとレイがおり、愛も背後から詰めてきている。
シュートを打つならここしかなかったろう。

難を逃れたが、カウンターのスピードは確かに驚異的だった。
(いくら陽ノ下さんが俊足だと言っても、チームの攻めのスピードがそれで決まるものでもありません…とすると)
チーム内でカウンターの決まり事を徹底していると言うことか。
その「チームとしての徹底」を乱したのが先刻のメイのプレイではあったが。
何故メイだけ…、と考えかけて未緒は苦笑する。
(確かに、伊集院君の妹ですね…彼女は)
あの個性はチームプレイとは相容れないだろうことは容易に予測できた。未緒はメイのことを詳しく知るわけではないが、一族の長兄のことなら多少知っている。いや、きら高イレブンなら誰もが知っていると言うべきか。
(さて、陽ノ下さんは館林さんに任せて…)
未緒はピッチ全体を見渡し、花桜梨の後姿に目を留める。
(要注意は…案外あの人かも)
さっきはチャンスにならなかったが、花桜梨の位置取りは絶妙だった。
コーナーの時の守備といい、花桜梨は部活経験がない筈だがそれにしてもいいところに居過ぎる。
今のところ花桜梨は守備的な位置にいることが多いが、そのうち相対する局面が来ることは容易に予想できた。










(あなた、こんなところでサッカーしてる場合なの!?)
ポニーテールの少女は光と見晴の競り合いを見ながら拳を握り締めた。
光に感情移入している自分に、少し自己嫌悪を感じてもいた。
と、何者かが肩を叩き、少女は驚いて跳び上がる。
少女は振り返り、軽蔑と軽い驚きを交えた目線で自分の肩を叩いた相手に呼びかける。
「…匠?」
少女が呼びかけた相手はひびきの高校二年、坂城匠である。
「何してんだよ、こんなとこで」



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