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そーゆーとこ。
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や、昔の文章って恥ずかしいなマジで。…ホントは大幅に全面加筆修正!とかしようかと思ってたんだけど、この文章を長いこと見てたらオレは発狂しかねん(笑)でも、このまま晒すのもそれはそれであれなんで(代名詞ばっかだな)、改行だけ弄ってます。ホントは文末も弄りたい…すっげえ違和感あるんだよ、何か。


伊集院大橋の見えるサッカースタジアムで、短髪にヘアバンドの少女が少し苛ついて辺りを見回している。人を待っているようだ。少女はふとピッチを見下ろす。

きらめき、ひびきの両校のイレブンはウォーミングアップに余念がない。やがて少女はひとりごちる。



「みんな、おっそいなー…何してんのや」



と、遠くから呼びかける声がして、別の少女の群れが彼女に近づいてくる。



「ちとせー!お待たせー!」

「遅いでゆっこ!試合始まってまうやんか!」



群れから一人少女が飛び出してきて、ちとせと呼ばれた少女の横に座る。



「ごめんごめん。ちょっと待ち合わせ場所間違えてさあ」



ゆっこは牧原優紀子、ちとせは相沢ちとせ。

優紀子と共に訪れた他のメンバーは河合理佳、御田万理、橘恵美、神条芹華、そして和泉穂多琉の面々である。

みんなもえぎの高校の生徒である。今回もえぎのイレブンはこの試合の偵察にきていた。



「まあええわ…あれ?まだ全員ちゃうよなあ?」



ちとせは人数を数えながら首を傾げるが、優紀子が説明を加える。



「末高の宗像さんはちょっと遅れるって。橘さん、かずみは?」

「今日もバイトがちょっと長引いてるとか…」

「あっそうか。きら高の和泉さんとマクグラスさんは?」

「二人とも来てるはずだけど、向こうも探してるかもしれないわね」



穂多琉がそう言う。それを聞いて理佳が思い付いた様に言う。



「ねえ、やっぱみんなでスタジアムに入った方が良かったんじゃないかなあ?」

「うーん、そやな。けどまあ、今となってはしゃあないわ。とにかく見てよ?そのうち向こうで見つけるて」

「じゃあ、席取っとかないとねえ」



理佳は言うが早いか、カバンの中から荷物を出し、空いた席の上へ置いていく。

万理が眉を顰める。



「前から聞こうと思ってたけど、これだけの荷物をどうやって持ち運んでいるの?」

「え?簡単だよ。流石に反重力とはいかないけど、超電導の理論を応用してー…」



このあとの理佳の科学講座は省略する。






















そろそろキックオフの時間が近づいている。

センターサークルには藤崎詩織と鏡魅羅がいる。キックオフの笛を待つばかりだ。



「ふう」



詩織はやや強張った面持ちで、深く深呼吸すると息を吐き出す。

センターサークルでボールを足の下に置き、審判の笛を待っているが、キックオフの瞬間は緊張が走る。



「どうなさったの?藤崎さん。緊張しているようだけど?」



呼ばれて振り向くと腕組みをした魅羅がいる。詩織は強張りながら、やや微笑んでみる。



「ええ…少しね」

「あらあら。しょうがないわね」

「…そうね」



詩織はさして感情のこもらない答えを返す。

魅羅は何か言いたげに詩織を見たが、あまり気にせずに続ける。



「まあ、これだけ多くの人々の注目と視線を集めることに馴れている人は、そうはいないものね」

「…そうね」

「例えば」



魅羅は豪奢な髪を一振りする。



「この私のように、類稀な美貌を持つものでなければ…ね」



その魅羅の言葉と同時に、メインスタンドから「ハイ!鏡さん!」の大合唱が聞こえる。

詩織はキョトンとすると次に吹き出した。魅羅は顔をしかめる。



「あら?私は冗談を言っているのではなくてよ?」

「そう、そうね。うん。ありがとう」

「まあ、荷が重いならいつでもおっしゃい。代わって差し上げてよ。そもそも」



魅羅は髪を掻き揚げる。



「万人の注目を集める、近代サッカーの花形たるトップ下は、この私にこそ相応しいのだから」



ここでまたしてもメインスタンドから「ハイ!鏡さん!」だ。よく訓練されている。

詩織に最早緊張の色は無く、軽く笑みを浮かべている。



「そうね、考えとく。…疲れたら代わってもらおうかな?」



魅羅は両手の手の平を上向けて肩をすくめる。



「あらあら、さっきまで泣きそうだったのに…心配する必要はないようね」

「もう、虐めないでよ」



詩織は視線を感じ、正面を見据える。それまで苦笑混じりだった表情が、瞬間引き締まる。



「…あれがひび高のエース…、陽ノ下光ね」

「気になるの?」



さりげなく魅羅が問う。詩織が息を吸って、応えようとしたその時、

詩織の表情が凍り付く。



「信じられない!」


 






















一方、センターサークルを挟んで詩織たちと対峙するのは陽ノ下光と水無月琴子の二人である。

今、光は対面の詩織を眺め、琴子に語りかけていた。



「ねえ、琴子」

「何よ」

「見てよ」



琴子のジャージの袖を引っ張る。



「ああもう、服を引っ張るのはよしなさいって!伸びるでしょ!」

「あ、ごめん。…でもさあ」



光の目線の先には、魅羅と談笑を交わす詩織がいた。ふう、と光は一息つき、詩織を見やる。

と、目が合い、詩織は笑いかけてくる。



「余裕だよね…笑顔の一つも見せちゃって、さ?」

「まあ、何せあの藤崎詩織だからねえ…って、なんで私の後ろに隠れるのよ」

「だって…今、何か睨まれたよお…」

「しょうがないわね。…あんたもうちの大黒柱なんだから、もっとシャキっとしなさいよ」

「でもさあ…」



琴子はやれやれといった風情で詩織に向かって微笑み、右手を差し出す。

その手で何かのサインを作って見せたようだが、光は琴子の後ろにいたためそれがなにかはわからない。

ただ、それまで悠々と微笑んでいた詩織の顔面が凍りつき、殺しかねない雰囲気を纏った事だけははっきりわかった。



「ちょ、琴子!何!?」

「もう後戻りはできないからね」



琴子は呟く。



「さあ藤崎さん、お手並み拝見といきましょうか」

「…来るよ!」



光はホイッスルと同時に駆け出す。


 






















「ハイ、結奈ちゃん」



きら高監督を務める紐緒結奈にスポーツドリンクを差し出したのはマネージャーの虹野沙希だ。

沙希の後輩の秋穂みのりがそれを見て血相を変える。



「あー!虹野先輩!そういうことは私に言ってくれなきゃ駄目じゃないですか!」

「あ、みのりちゃん…」

「そういう雑用は私がします!」

「でも、私もマネージャーだし…ね?」



結奈は二人をよそに、あからさまに不愉快な顔をしている。

(大体なんで世界征服の野望を中途でおっぽりだして、こんな球技の監督をしてるんだか…)

それもあるし、どうも自分がここから浮いているという自覚があるせいでもある。

ただ、経緯はどうあれ、勝ち負けのあることには勝たなければならない。それが結奈の信念であり美学だ。



そもそも、十一人そこらの相手に勝てないで世界征服などおこがましい。



実際、サッカーなんて見たことも聞いたこともないが、どんなルールであれ勝利するのが覇者であり帝王であろう。

その信念の下、今日まで結奈はそれはもう真面目に研究したのだ。

(まあ、世界征服したあとの人心掌握に役立つかもね…)

結奈は思考を巡らし、スポーツドリンクを受け取る。なんとなく、沙希の顔を見る。



「…有難う。…」

「な、何?私の顔、なんかついてる?」



おそらく一生かかっても理解できないであろう相手の顔には当惑の表情があった。



「…別に」



ホイッスルが鳴り、結奈はピッチに目をやった。沙希も目を移し、声を上げる。



「あっ!みんなー!がんばってー!」

「…」



結奈はなんとなく頬杖とため息をついた。


 






















詩織はホイッスルを聞くと後ろを振り向き、館林見晴に軽くパスを出す。

見晴は、すぐにやや左に開きかけた片桐彩子にパスを通すと、ほっと安堵の息を付く。

(ふう…ファーストパスがくるとはねえ)

彩子はボールをキープ、左から右へと切返して右サイドの清川望を伺っている。

光はボールを横目に見ながら、前線へ上がっていく。

(みんな、頼んだよ)

センターライン真上で詩織とすれ違いざま、詩織が話しかけてきた。



「…陽ノ下さん」

「何かな?」

「水無月さんとは友達…なのよね」

「うん、そうだけど」

「言い難いことだけど」



詩織は少し躊躇ったがこう言った。



「友達は選んだほうがいいわ」

「!?」

「じゃあね」



それだけ言うと詩織はひび高ゴール前へと向かう。

(琴子…?)


 






















美咲鈴音はバックスタンドほぼ真ん中から、きら高のベンチに視線を注いでいた。

自分をこの試合に招待した彩子の真意を図りかねながら。



(ハーイ鈴音。今度の日曜は暇よね?)

(そんな、いきなり決め付けなくても…)

(どーせすることないんでしょ?)

(でも、空白の時間をどう過ごすかでミュージシャン、いえクリエイターとしての資質が問われ…ってやっぱり片桐先輩聞いてないし!)

(今度の日曜、サッカー見に来ない?)

(…サッカー、ですか?)

(Yes,that's right。私が4番でエースの大活躍するから、見て欲しくって)

(それはサッカーじゃないような…)

(クォーターバックでポイントガード、だったかな?No,no no,そんなことはどうでもいいの)

(…どうでもいいんですか?)

(とにかく。見て欲しいのよ。You understand?)



そんなやりとりをしたのがつい先週のこと。

最後の一言を言う時の彩子の顔がいつになくシリアスで、気に掛かって来ては見たが…、



(…何で、私を?)



その疑問が途絶えることはない。

ついこの間、ちょっとした三角関係を彩子とその彼氏―つまりバンドのギタリスト―と演じたばかりだ。

鈴音は「吹っ切った」つもりでいたが、やはり胸が痛む。彩子は彼も呼んでいるだろうか?



(もし会ったら、どんな顔したらいいんだろう)



その戸惑いは確かにあったが、その底には「会いたい」気持ちも間違いなくある。

会ったからといって…、彼と彩子の間に割って入れるとも思えないし、その意志もない。





意思もない?

本当に?





割って入れるかどうかはともかく、そのつもりもない?

鈴音は自問してみる。



…いや、ないとも言えない…。



大体、その程度の浅い想いではなかった。振り切って振り切れるような。

そうでもなければ、こんなところにのこのこやってくる理由はどこにもないと思えた。



(やっぱり、未練が…)



「ああ、もう」



短く呟いた時、ピッチではボールを持ち上がる彩子の姿が目に入る。



(片桐さん…)



どういうつもりなんだろう?あの人。

鈴音は考えたが、答は出ない。


 






















「見るべきものがある試合だといいけど」



穂多琉がぽつりと呟くと、ちとせが応える。



「とりあえずきら高では藤崎詩織見とかな。ま、ウチよりちょっと上手いくらいやけどな」



芹華が訝しげにちとせを見る。



「…ちょっと、か?」

「あー、わかったわかった。向こうがメッチャ上!ですー。これでええんか?」



芹華は軽く頷く。



「何や感じ悪いなー。まあ、正味のハナシ、藤崎はすごいで。パサーとしてのパスの精度、速さ。視野も広い。自分でボールをキープしてもよし、ドリブルも鋭く速い」

「隙あらばゴールを狙う積極性、肝心なときに肝心な所に必ずいる洞察力と運動量、もね」



守備的MFの理佳が付け加えると、ちとせは軽く頷く。



「まあ、そやな。周りを活かすことも、自分で活きることもできる…藤崎以外のきら高メンバーも、まあ悪くはないんやけど…」

「藤崎さんがいないと見劣りする、でしょうね」



恵美が後を引き取る。



「そやな。つまり、きら高対策とはイコール、藤崎詩織対策であるわけや」



リベロの優紀子は話に加わらず、黙ってピッチを見つめている。目線の先には詩織がいた。



(あれが…藤崎詩織さん、かあ…)


 






















詩織はボールを持ち上がる彩子をフォローしながら、周囲に目を配る。



(清川さんに出ればいいけど…、)



望にはひび高左サイドバックの寿美幸がマークに付いており、彩子からはパスを出せない。

詩織はわざと美幸の視界に入り、彩子からボールを受ける素振りだけを見せる。



(…どうかな?)



もし美幸が詩織の動きに気付き、詩織へのパスコースを塞ごうとするなら、望へのコースを空けることになるだろう。



(少し回りくどいかな…)


 






















「ふう」



少女は小さく呟くと席を探す。

なんとか試合開始には間に合ったようだ。

空いている席自体はあるが、見易くて周囲と少し離れた席はなかなかない。

やや後ろの席になるが、それも止むを得ないだろう。そこに腰を下ろす。

その席は鈴音の真後ろの席だった。

少女が軽く頭を振ると、ポニーテールの髪がかすかに揺れた。

少女はピッチに熱い視線を注いでいる。

その視線は熱を帯びてはいるものの、好意や好感とはおよそかけ離れたものだった。


 






















「あ…」



優紀子が小さく声を上げる。



「ん?どうしたんゆっこ?」

「なるほどね…」



優紀子はしきりに頷く。万理も同意する。



「そうね、ボールを持っていなくても充分味方に貢献している…」



ちらとちとせを見る。



「私達の攻撃的MFもこれくらいできるといいのにねえ」

「ほっといてんか。ウチにはウチの持ち味があるねん」



ちとせは憮然としている。

飛び出しのタイミングやセンスで勝負するタイプのちとせを、万能タイプの詩織と比較するのは若干酷と言えば言える。

だが、詩織はちとせの得意分野でもいい勝負ができるだろう。詩織の場合、全ての能力が高次で安定している。

芹華はそのやりとりを見守っていたが、背後に異様な気配を感じて振り返る。



「…」



ポニーテールの少女が座っていて、ピッチに熱い視線を送っているのが見えた。



(ネガティブな感情の塊だ…一体…?)



「芹華?」



恵美に問われて慌てて振り返る。



「いや、なんでもない…何でもないんだ」


 






















彩子はひび高左ウイングの赤井ほむらのプレスを受けながらパス先を探している。



(ノゾミに出したいけど…)



ほむらがなかなかにしぶとい。

元々攻撃的なプレーヤーなのでさしてディフェンスは上手くないが、この手の勝負事には執念深いのが赤井ほむらだ。



「おらおらおらー!いい加減観念してボール寄越せ!」



チャージをかわしながらドリブルするうち、サイドライン際まで来てしまう。



(Hey,somebody誰か、ボール取りに来てよ)



だが見える範囲の味方にはきっちりマークがついている。出せそうにない。

いちかばちかのドリブル突破を彩子が検討した時、望へのパスコースを塞いでいた美幸が不意に動いて、そのせいで望へのパスコースが開く。



「Good chance!」



彩子は一声叫んで、望へのパスを送る。そのパスは向かってきていた美幸の足元を掠めて望に通る。

美幸は足を出すが届かない。



「あー!」

「ナイスパス!」



望はサイドを駆け上がっていく。


 






















ふと、喉の渇きを覚える。そういえば入り口からここまで急いできた。

やがて少女は立ち上がり、飲み物を買いに席を離れた。

まだ試合の動かない、開始早々なら多少席を外しても大丈夫―と少女は考えていた。

だがサッカーでは開始早々と終了間際の五分間でよく試合が動くといわれることを、彼女は知らなかった。


 






















ひび高右ウイングの八重花桜梨は美幸のプレーを見て顔をしかめる。



(軽率…)



美幸にしてみれば自分がフォローに入ることで二対一になり、ボールを奪えると判断したのだろう。

だが、彩子はほとんど動けなくなっていたのだから、望へのパスコースを空けるべきではない。

確かにフォローは要るがそれは美幸の役目ではない。



(もっと周りを見ればいいのに…)



花桜梨は少しため息をついたが、ボールを追う。

自分以外のチームメイトを見渡してみると、運動経験のある自分がいろいろ動く必要がある。

おそらく、それが勝利への近道であろう。

花桜梨はそう結論付けていた。この時点では。


 






















望は持ち前の足を生かして右サイドを突破、深く抉っていく。



「クロスが上がるよ!マークついて!」



ひび高ストッパーの一文字茜が叫び、自分はきら高センターフォワードの鏡魅羅のマークに付く。肩から当りに来た茜に、魅羅は顔をしかめる。



「ちょっと…、強引ではなくて?」



だが茜は悪びれる素振りもなく笑う。



「はは、ごめんごめん。けど、こういう仕事だからさ、ボク」

「…まあ、どうマークしたところで無駄は無駄だけどね。ほーほほほ」

「…」



茜はカチンときて、魅羅へのマークを一層タイトにし、肩と背中をぶつけていく。



「!ちょっと!」

「…やってもらおうじゃない。キミには絶体点取らせないからね!」

「まあ、せいぜい頑張ってみることね。ほーほほほ」



高笑いが響く。


 






















ボールを持ち上がる望をひび高ディフェンシブハーフの白雪真帆が追うが追いつけそうにない。

望は少し内に切れ込むが、花桜梨が回り込んできたのを見ると、ブロックされる前にクロスを上げる。



「…!」



花桜梨が跳び上がるが僅かに届かず、ゴール前で競り合う魅羅と茜のところに上がる。



「ヘディングなんか、させないからね!」



茜は勢い込んで跳び上がるが僅かにタイミングがずれ、魅羅にボールが合ってしまう。

魅羅がこのボールを後方に落とすと、そこは無人のスペースで、詩織が猛然と走り込んでいる。



「…あ!」



琴子は詩織を認めて叫ぶ。

慌てて駆け寄り、ボールめがけて滑り込む。

だが詩織が一足早く、軽く左、走り込む優美の前に蹴り出す。

ノーマークの優美は走りこんだ勢いそのままにランニングボレーを放つ。

方向は完全にキーパーの逆を衝いていた。

だがボールはゴールをケアしていた美幸の顔面を直撃、美幸を吹き飛ばしてそのまま跳ね上り、ゴールラインを出てしまう。



「はにゃ…美幸やっぱり不幸…」


 






















「いいシュートだね」

「いや、賞賛すべきはその前の飛び出しの早さと判断の早さ、だね」



優紀子の問いに芹華は応える。



「…そうね。実際、ああいう局面でゴール前に詰めて来れるのは…」



穂多琉も頷く。



「ほらみんな。コーナーやで。注目注目!こっちの方がチャンスっぽいやんか」



ちとせはピッチを指した。


 






















「いきなりまずいわね…」



ノータッチのまま、コーナーキックになっている。琴子はため息混じりに呟く。



「戦力差は圧倒的、か」



セットプレーとなったとき、ひび高イレブンは上背のある選手が少ない。花桜梨を探し、声をかける。



「八重さん!」



花桜梨に呼びかけると、魅羅を指す。



(背の高い私に、向こうで一番背のある鏡さんをマークさせる…か。わかった)



頷いて魅羅をマークする。



(鏡さんはこれでよし…)



コーナーフラッグには詩織が走って行く。琴子はそれを見、ゴール前と周辺のマークを確認する。彩子にはすみれ、夕子には茜、望には美幸が付く。



「大丈夫、ね。私は…」



きら高フォワードの早乙女優美が少し離れた所にいるのを見て、琴子はそちらに貼り付いた。


 






















「大丈夫かなあ」



佐倉楓子は不安げに、監督を務める麻生華澄を見やる。開始早々、コーナーキックのピンチだ。

チームの総合力にもともと差があるとは思っていたが、この時間で最初のピンチというのは早すぎはしないか?

だが華澄は特に焦る風でもなく戦況を眺めている。泰然自若というと聞こえは良いが、楓子は一抹の不安を隠しきれない。



(確か、麻生先生って吹奏楽部の顧問だったよね…)



本当にサッカーの監督ができるのか?その一点に尽きる。

ちなみに華澄とは古くからの知己である陽ノ下光にそれとなく尋ねたところ、光は「七~八年前のことだけど」と前置きした上でこう語っている。



「華澄さ…麻生先生は、昔からスポーツも抜群だったよ」



とのことだが、個人としての運動能力イコール監督としての能力…を意味するものでもない。

楓子自身、選手時代の名声と監督になってからのそれが一致しない例をいくつか見ている。

華澄は急に立ち上がり、楓子に問い掛ける。眼差しは至って真剣だ。



「佐倉さん」

「…はい?」



楓子もつられて立ち上がる。

もしや名監督の初采配を見る瞬間に立ち会っているのか、と楓子は一瞬思った。

華澄はコーナーの詩織を指差す。



「藤崎さんは、なんで角からボールを蹴ろうとしてるの?」

「…」

「線から出たらスローイン、じゃないのかなあ?」



真剣にそう思っているらしいあたり、救いが無い。



「あ…みんな!しっかり守ってー!」



楓子は聞こえない振りをすることにした。


 






















ポニーテールの少女はがらんとした通路に降り、売店の前で飲み物を選んでいる。

…ついいつもの習慣でスポーツドリンクを選びかけ、僅かに顔を歪めた。



(今更節制したって…何にもなりはしないのに)



思い切って(少女にとっては、だが)炭酸飲料を買ってみる。

売り子から紙コップを受け取り、何となくコップの中の液体を見詰める。

あまり飲み馴れない、濃い色の飲み物は体にひどく悪そうに見える。

とその時、スタジアムを歓声が包んだ。ゲームに動きがあったのか。

少女は足早に自分の席へ急いだ。

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うひゃひゃひゃ、久しぶりに読んでしまいましたよ
ちす、Blog開設おめでとうございます。
しっかし久しぶりに読みましたね(笑)今読み返してもクオリティ高いっすねえ。
続々続きが出る事を期待しています。では
Bucchi 2008/02/28(Thu)23:11:26 編集
いやまあ、めでたいというか何というか
いやどうも、今度はこっちがパクらせて貰いました(笑)
クオリティは…うーん、どうですかねえ。高いといいんですけどねえ。あんまそんな気しないし…って、そちらも開設おめでとうございます。ご挨拶が遅れてて申し訳ないです。
今度行ってみよう。触れてみたい事いくつかあるし。

てなわけで、では。
捨井 2008/02/28(Thu)23:46:20 編集
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